風丘ひなの、19歳。
 趣味は人間観察です。





 変人だとよく言われます(AB型だし)。





 ま、それはそれでアリかな、なんて思っている今日この頃です。






    for ninety minutes






 大学の講義なんて聞くも聞かないも本人次第。
 だけど。
「風丘、次読んで」
 なんて唐突に言われることもあるので、努力しないで単位が欲しければ聞いておくに越したことはないのでしょう。
 私はどちらかというと真面目に聞いている方。
 ……なのに、“どうも焦点が合ってない”だの、“いつも眠そう”だのとの言われるこの茫洋とした顔つきのせいで聞いてないと思われることもしばしば。
 まあ顔つきばっかりは親の遺伝子の産物だからどうにもなりませんけども。
 一回あてられて、“しっかり聞いてます”アピールさえしておけば、あとの時間は私のもの。
 このときのために、わざわざ早くから一番後ろの席を取っておくといっても過言ではありません。
 こっそり、一番後ろの席から周りを観察。
 これが普通の19歳の女の子なら、気になる男の子がいるとかって理由なんでしょうけど、生憎私はそんな可愛らしいカテゴリーに入る部類でもなく。
 ただひたすら、内職やメール、睡眠に意欲を燃やす人々を観察している次第なのです。


 何が楽しいのかと言われても、別にこれと言った理由もなく。
 「趣味です」私は事もなげにそう答えてみたり。
 それでたまに(ほんとにたまに)、偶然人の弱みを握ってしまったりするから、悪趣味だなんて言われるときもありますけど。
 別に弱み知ったからってどうこうしようってわけじゃないので。
 個人情報の流出には厳しいご時世ですしね。


 授業が終わると、第二外国語(ちなみに私はロシア語。マイナーですな)が一緒の本条結が飛んできました。
「ひなの、……もう授業終わったんだけど」
「えっ?」
「君の観察好きはよーくわかったから、休み時間ぐらいはリアルワールドで生活していただけると助かるんですけど」
「了解であります」
 敬礼の真似をしながら、人でごった返す食堂へ向かって。
 私が言うのもなんだけど、結だって相当“普通の”女の子カテゴリーには当てはまらない(と思われます)。だから仲がいいのかもしれません。
 ……コレが俗に言う類友ってやつなんでしょう。
「何食べる?」
「食べる以前に座れないって。学食諦める方が無難ぽい」
「かなあ。ま、天気いいし外でごはんもいいかもね」
 実はさっきの時間からかなりカレーの気分だったのだけど、あまりの人の多さにすっぱり諦めることにしました。
 人生諦めが肝心。(ちょっと違うかも)
「まったくー、君がいつまで経ってもリアルワールドに切り替えてくれないからいつも学食行きそびってるじゃないか」
「それ私のせいじゃない。ロシア語が二限の日が多いせい」
「確かに朝からロシアはきついけど……って違う!」
 結がツッコミを入れてくる。
 相変わらず的確ですこと。
 一応言い訳してみましょう。
「ロシア語の人たち観察すんのが一番面白いからさ、しょーがないのさ」
「ひなのはそれで確か前、伊藤君が彼女と別れたばっかりでがっつりへこんでんの偶然知っちゃって、口止め料とか言ってジュース奢ってもらっていたよね?」
「それはオプション。私の目標はあくまで観察オンリー」
「気がついてないかもしんないけど、けっこうあのことあってからその観察癖、恐れられてるよ? 風丘ひなのに弱みを握られるな! ってみんなが意気込んでる感じ」
「いやーそこまで期待してもらってるなんて照れるなあ」
「照れるとこじゃないからそこ。全然」
 またつっこまれました。
 結はふわふわっとしたしゃべり方だけど頭の回転が速くて、話し上手。
 私のことを一番よくわかってくれてて、しばしばマイワールドに行ってしまいがちな私を引き戻す役目でもあります。
 それでも二人で話してるとどんどん話題が変わって、本筋から逸れていって、最後には「で、何を話しててこうなんったんだっけ?」みたいな感じになってしまったりもします。
 昼ごはんを食べ終わって、またあれこれ話しながら次の教室へ向かいます(1年生はだいたい科目が似かよっていて、ひとりひとりの時間割もあまり違わないのです)。
「だからね、その考え方で行くとやっぱりポメラニアンでしょ」
「んー私はダックスフントでも行けると思う」
「……お前ら何の話してんの?」
 教室に入ろうとしたら、後ろから声をかけられました。
 振り向くと、体育が一緒の浅田でした。
「浅田。ちょっと聞いてよ! サーカスで犬に玉乗りさせるならどの種類の犬がいいかって聞いたのに、ひなのがダックスフントって譲らないわけ。あの短足でどうするのよ?」
「ポメラニアンだって足長くはないって」
「そもそもなんでそんな話になってんだよ。俺としては一生に一回するかしないかのレア話題ばかりが詰め込まれた君らの頭の中がとても気になる」
「「なんでそんな話になったか忘れたから引っ込みつかなくなってるの」」
 二人で同時にいうと、浅田はため息をついて、「いつものとこに席とってあるから」と呟きました。
 浅田はどこからどう見ても、普通の人。
 私たちと話しててなんか、大変そうだけど何かと構ってくる。
 結より的確なツッコミはありがたいし、三人でしゃべるのも楽しいし。
 誰になんて言われようと、私はこの生活を変える気はないのです。


 授業が始まって、先生が入ってくる。
 教室が静かになる。
 みんながノートを取り始めて、私もそれに倣う。


 さあ、どんな90分を過ごしましょうかね?


 授業独特の静寂と僅かな緊張感にわくわくしながら。
 手始めに、もううたた寝を始めた浅田に消しゴムでも投げてみましょうか。

---fin---





はい、またおかしなテンションの作品でした。
「コンビニ」の成くんの女の子版ともいえるかもしれないニュー主人公・ひなのちゃん。
+結ちゃん(類友)+浅田くん(常識人)と、、いつもは男女ひとりずつが多い中、トリオもまた新鮮でした。
一人称で敬語、というのは初めての試みですが楽しかったです。
不自然にならないように織り交ぜてみましたが、いかがでしたでしょうか。
ご意見・ご感想等ありましたらBBS・メールでぜひぜひ。

ちなみにあたしも人間観察大好きです。


←Back