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赤いリンゴ。
リボン。
色とりどりのオーナメント。
個性的な飾りをまとめるのは、モミの木の葉。
本来なら落ち着いた、深い深い緑の葉は、この時期だけはカラフル。
街もそれに合わせたように、ここぞとばかりに輝いてる。
でもあたしは、この時期は外に出たくない。
この、ぎらぎらした感じが、たまらなく嫌い。
赤い実白い手緑の葉
イルミネーションでまばゆい中を、少し不機嫌そうに歩く。
鮎奈は、典型的なアンチクリスマス派だった。
どうしてもこの浮かれた感じが好きになれない。
(日本って仏教国じゃなかったっけ? こんな派手に祝う必要がどこにあんのよ)
それでも彼女は、クリスマスイブという今日、外を歩いていた。
「鮎、いい加減そんな顔すんなって」
笑いながらも少し困った顔をして、二歩先を歩いていた裕泰が振り返って言った。
「あたし言ったじゃん、クリスマス嫌いって。映画だってヒロが奢ってくれなきゃ来なかった」
決して出かけるのが嫌いなわけじゃない。
その証拠に、コートだってブーツだっておろしたてだ。でもそれは別に裕泰と出かけるからとかではなく、単にお洒落が趣味だからだ。
「まあまあ。で、どっち観る?」
「あたしが誘われたんだからあたしに合わせてくれてもいいと思う」
「オレが誘ったんだからオレに合わせてくれてもいいと思う」
鮎奈のセリフを、裕泰はそっくりそのまま返した。
どっちもどっち、正論ではあった。
そう、鮎奈がクリスマス嫌いと知っていながら誘ったのは裕泰だった。
鮎奈には今つきあっている人もいないし、(悲しいくらい)何とも思われていないので映画くらいならつきあう、と誘いに乗ってくれた。
実際、普段一緒にいる友達はほとんど恋人がいて、お互い遊んでくれる人がいなかった、ということもある。
ところが、裕泰が観たかった映画は鮎奈が既に観たものだったので、どちらの意見を採用するかでかなりの時間が経っていた。
「じゃ、コインで決める?」
裕泰はそう言って100円玉を取り出した。
軽く放って、パシッと手の甲に落ちた瞬間を隠す。
鮎奈は少し考えて、
「表」
と一言言った。
手をどかすと、コインは裏だった。
「残念、裏でした。じゃあ今日はオレの観たいのに決定ー」
「もー。ホントにおごってね?」
「それはもちろん」
言いながら二人は雑踏を抜け、映画館に入っていった。
二回目だった映画は意外と面白くて、その後夕飯を食べに入ったレストランでもその話題で盛り上がった。
裕泰が失敗したのは、あまり強くないのにどんどんワインを飲む鮎奈を止めなかったことだ。
気が付けば鮎奈はイカみたいになって、ろれつもまわらなくなりかけていた。
「ほら、鮎。ちゃんと歩けって」
「うるさいなぁヒロはー。ふつーに歩いたってぶつかるんだからどうだっていいじゃん」
「そういう問題じゃないだろ」
裕泰は酔っ払いの腕を掴んで、一生懸命歩いた。
(なんでオレばっかりこんな目に……)
そう思うと腹も立ってくる。周りを見渡せば幸せそうな人で溢れているのに。
「「ホントムカつくぐらいカップルばっか」」
同時に毒づいていた。
「ヒロもそー思った?」
「こんな酔ったお前の世話させられてたら思うって」
「はははーごめーんねー」
全然そう思ってなさそうに謝った。
やっとのことで駅前の広場に辿り着いた。
ここはひときわイルミネーションが華やかだ。中心には大きなクリスマスツリーがあり、ここから続く通りの街路樹にも電飾が施されていて、この時期は絶好のデートスポットになっている。
空いているベンチを見つけて二人が腰を下ろすと、ちょうど10時を知らせる鐘が鳴った。
やはり駅の名物として設置された、レトロな時計から聞こえてくる。
「10時か……」
「この後どうする?」
「んー、どうせどこ行っても今日は混んでるしね。あたしの家で飲み直さない?」
「うわ、まだ飲む気?」
「いいじゃん、せっかくひとりでいなくて済んだんだし」
「やっぱこういう日って、ひとりでいるの嫌なもん?」
「嫌っていうかね。後になって友達に自慢されたりするのがなんか、寂しいし。でも張り合うみたいにこの時期だけ誰かとつきあっても余計虚しいし」
「そりゃそうだよな」
駅前通りに流れていく人を見ながら、裕泰は返した。
鮎奈は周りに流されない。強い。
そういうところがいいと思っている。ちょっと自分では太刀打ちできないかも、とも思う。
でも今日、言おうと決めた。
「帰るか」
「うん」
それから電車に乗って、鮎奈のアパートまで戻る。
途中公園に寄って、またベンチに座ってぼんやり夜空を見た。
「今年は雪、降らなかったねー」
「でも星がすげーなぁ」
「ホワイトクリスマスなら少しはマシだったのに」
「マシって?」
「なんか赤と緑ってきつい組み合わせな気がしない? 雪で白くなればちょっとは和らぐでしょ」
「なるほどなー」
それきり、会話はなくなった。
二人でバカみたいに、星空を眺めた。
(静かなところで、ひっそり祝うならクリスマスも悪くないんだけど)
鮎奈は何となくそう思っていた。
クリスマスが嫌いだから、と言えば映画を観に出かけるってことでって言ってくれる。
雪が降らない、と言えばかわりに星がきれいだ、と言ってくれる。
裕泰はいつも、鮎奈の気持ちをやわらかくしてくれる。
つきあっているわけではないし、鮎奈は友達以上に見たことはない。でも、一緒にいてとても気楽で。
(ヒロは、あたしのことどう思ってるんだろ?)
星を見たまま、ぼんやりと考えた。
そんな鮎奈の心を読んだかのように、ふいに裕泰が言った。
「鮎」
「なに」
「キスしても、いい?」
「だめ」
「…………なんで」
「言わないで、態度だけで示そうってのは、ずるくない?」
「言ったら考えてくれる、ってこと?」
「そーいうこと。うちでゆっくり聞かせてもらおっかなー」
鮎奈は明るく言って立ち上がって歩き出した。
裕泰も、ため息をついてから後を追う。
「手繋ぐくらいは?」
「ま、そのくらいはね。いいよ」
はい、と鮎奈が差し出した手を裕泰が取る。
こんな寒い夜に公園にいたせいで、二人の手は真っ白になっていた。
少しずつ熱を分け合って、家に帰る。
雪がなくても。
この白くなった手があれば、クリスマスの景色も和らぐかもしれない。
それもまあ、悪くないかもね。
――いつか、クリスマス好きになれる日が多分来る。ヒロと一緒なら。
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