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映画でもドラマでも小説でも。 ヒーローとヒロインは、くっついて終わり。 誰もその後なんか教えちゃくれない。 それはその方が都合がいいから。綺麗に終われるから。 ……だと思ってました。 オレは今回、ハッピーエンドのその後を体験するにあたってそれは間違いだったってことを知る。 ハッピーエンドにその後がないのは。 本当は―― アフターハッピーエンド ここでいうヒーローとヒロイン、月岡航と椎名美琴は美琴の努力の甲斐あって、バレンタインに(やっと)両想いになった。 晴れて恋人同士。 でも、友達の期間が長いとなかなかその雰囲気から抜け出せなかったりもする。 「ちょっと聞いてくれよ佑真」 「いやだ」 「冷たいなあ……」 「椎名のこと以外ならいくらでも聞いてやる」 航ははっきりと困った顔をして、そんなあとか薄情だなとか何とか言って黙った。 いい加減、自分でもわかっている。 だけど、どうしたらいいかわからないのだ。 航の親友でありバンド仲間であり相談役の若月佑真は、その様子をクールに見ていた。 内心面白いと思いながら。 「だからさ実際問題、オレたちってつきあってるんだよな?」 「俺に聞くな」 「じゃあ質問変える。……つきあってるように見える?」 航はすがるような目で、彼女になったばかりの美琴のことを訊いてくる。 沈黙数秒。 「見えない」 「うあーやっぱそーだよなー。でもどっちかっていうと悪いのはオレじゃなくて美琴、っていうかあいつはそんなことで悩みもしないんだろうし音楽バカだし顔はかわいいけど性格あれだし、あっでもでも」 以下、航の美琴分析は続く。 佑真はっていうか、のあたりから聞くのをやめた。 最近航はいつもこんな調子だ。 何が気に入らないって、多分美琴の態度なんだろう。 やはり同じバンド仲間である美琴が、乙女チックな性格でないことは周知の事実だ。バレンタインにくっついた二人だが、それはひとえに佑真の隠れた助言のおかげである。美琴が佑真に、告白するかどうか相談していなかったら多分言っていなかった。実際、そんな性格の彼女が、航に何と告白したかは佑真も大変興味のあるところだったが、どちらも絶対に口を割ろうとはしなかった。 「ごめんーおまたせ」 そこへ、件の美琴が現れた。 航たちは次のライブの相談をしようという名目で集まっていた。よくたむろっていた部室はストーブが壊れて本格的に凍死しそうな勢いなので最近は誰も寄り付かない。というわけで今日はファミレスだ。 やや沈んでいる航と呆れ顔の佑真に、美琴は変な顔になる。 「な、んの話してたの?」 「椎名の話」 「あたし!? あーすいませんミルクティーひとつ」 側を通りかかったウエイトレスにちゃっかり自分の注文を済ませ、美琴は航の隣に座る。 「航の顔から考えてあんましいい話じゃなさそうだけど?」 「別に悪い話でもないけどな。航、椎名来たんだからやるべきことやらないか」 「そうだな……」 言いながら三人はてきぱきとライブの打ち合わせをする。もう何度もやっているので慣れたものだ。 もともと事前準備はあまりない。一緒にやってくれるバンドに日時と場所を伝えればそれでほぼ終わりだ。一番忙しいのはむしろこれから本番までの練習と練習場所の確保だろう。 「ま、一緒にやるとこも今まで何度かやったところだし、こんなもんでいいんじゃない?」 「だな。じゃあ俺バイトだから行くな」 「おー、じゃあな」 佑真がいなくなると、航は美琴を見る。 「なに?」 「いや、おまえ変わらないよなーって」 「それっていつと比べて?」 核心を突かれて、航は黙る。 「変わってほしいの?」 「そうは言ってないだろ」 「言ってるよ。航の態度見てればわかるもん。つきあってたら変わらないといけないの? あたしは、航にはすごく感謝してるし、でもそれとは別にちゃんと好きって、先月言ったよね」 次から次へと刺さる言葉を言われて、航にもう反論の余地はない。 (だけど違う) 自分が言いたいのは、そんなことじゃなくて―― 「……ごめん」 思わず謝っていた。自分でもなぜだかよくわからないけれど。 「? 何のごめん?」 「わかんないけど。オレって欲張りかなーと」 「うん、少しね」 きっぱり言われてまた少し傷つく。 ああ、どうしてこう、この娘さんは全くもう……。 「でも航はいつも、努力して欲しいものは手に入れてきたじゃない。『彼女らしいあたし』が欲しいなら、あたしがそうなるように努力して?」 他人が聞いたら、なんて傲慢な言い草だろうと思うだろう。 でも一理ある。 “ひとを想い続けること”には案外パワーがいるし、“つきあい続けること”には絶え間ない努力が必要だ。 「……うん、する。絶対今より好きにさせるから覚悟してな?」 「じゃああたしはその倍ぐらいがんばっちゃうよ?」 顔を見合わせて、互いに不敵に微笑む。 現状に不満なら努力。 昔の偉人が言いそうな言葉を心に刻み込む。 航はふいに思い出して、カバンを漁る。 「そうだ美琴、……これ」 そう言ってブルーの包みを取り出して美琴に渡す。 「あ、ありがとー。そういえばホワイトデーだったっけ」 美琴は言いながらリボンをほどこうとする。 「あーストップ! 後でっていうかオレがいないとこで開けて」 「なんで?」 「なんか恥ずかしいじゃん、目の前で開けられんのって」 航がしきりに照れている。 人に贈り物をするのは、いつまで経っても慣れない。もう20歳なんだし、もう少し上手く渡したいとは思うのだが。 美琴はなぜか目をきらきらさせている。 「かーーわいいーーーーっ! ねっねっ、今の顔もう一回して?」 「は?」 「だって航のそんな顔初めて見た! 滅多に照れることないじゃん?」 いきなりテンションが上がった美琴を航はぽかんと見ている。 心底楽しいらしい。 「なんだよ急に! 人の顔見てそんな楽しそうに……趣味悪いって!」 「いいじゃない、かわいいものはかわいいんだから!」 かわいいかわいいと連発する美琴。 航はあっけに取られながらも、そんな美琴をかわいいと思っていた。 「……心配しすぎてたかもなあ」 「え、なに?」 「なんでもない。それより美琴、実は可愛いもの好きとか?」 「ううーバレちゃった。っていうわけでこれから雑貨見に行きたいんだけどいい?」 「まあこの際つきあいましょう」 言って立ち上がる。 手を繋いで目的の店を目指す。 きっとお互い知らないことはまだ、たくさんあるんだろうなと思いながら。 ハッピーエンドにその後がないのはきっと。 それを持続させるのには努力が必要で。 その努力ってやつは結構、かっこ悪くて見苦しくて情けないからなんだろう。 オレが主人公ならまず、そんな姿は見られたくないし。 さっぱりした性格(でも可愛いもの好き)な彼女に、これ以上呆れられないように。 努力してみようか。 そうしたら、案外未来は明るいかもしれない。 ……オレ以上にがんばる、って言ってしまった美琴がどう出るか、非常に楽しみです。 ←Back |